ツイッターで拝見したときから、すごい本だなとは思っていたのですが、期待を裏切らない素晴らしい作品でしたので、ご紹介いたします。
カオスブックスさんの小節「双星譚」です。
http://chaoschaosbooks.tumblr.com/
まず表紙がカラーでかっこいい。
タイトルの「双星譚」は(少しネタバレになってしまいますが)「二つの星=双星」と「創世」との二重の意味がかけられていることが読み終わるとわかります。
非常に練られています。
さらに、表紙を外して広げると、物語に登場する星の地図になっています。
星に生息する動物や植物、それから町が記されています。カラーで。
カオスカオスブックスさんの作品は、全てかなりこだわった装丁になっています。
本は「書かれている中身が一番大事」だと普通の人は思うかもしれませんが、我々ビブリオマニアにとっては、装丁、紙、フォント、挿絵、組版といったことがむしろ一番大事なのです。
装丁や紙やフォントや挿絵が素晴らしければ、内容が全くわからなくても買う価値があります。
なぜならば本としてのクオリティが高いからです。
クオリティの高い本は買う価値があります。
カオスカオスブックスさんの本はクオリティが高いのですが、値段が安いです。
こういう本はもっと高い値段をつけていただかないと、私の本が相対的に割高に思えてしまうのでやめていただきたい。
さて、もちろん小説の中身も面白いです。
上の挿絵の丸いやつがバンゲリブラ人。
三角なのがサ・ムゥ人です。
ざっくりいうと、三角のサ・ムゥ人は私がいうところのインテリです。
なんでも紙に記します。(厳密には紙ではない。この星独自の物質)
好奇心が旺盛で言語によって全てを明らかにしたいという強い情熱を持っています。
インテリのわたくしとしては、非常に好感が持てます。
まるいほうのバンゲリブラ人は、サブカル女子です。(当然、本当は全く違います。読んでください。)
言葉は使えないのですが、絵を描くのが非常に上手で、それによって意思を伝えたり、音楽を伝えたりできます。
音、意思、色、こういったものが彼らの中では一緒になっています。
みな一日中絵をかいています。
言語派インテリのサ・ムゥ人。
感覚派のバンゲリブラ人。
二つの種族が出会います。
言葉でコミュニケーションしようとする種族と、絵でコミュニケーションをする種族。
これらが出会うことによって非常に面白いことも起きますし、悲しいことも起きます。
異文化が出会ったときに生じる悲しい出来事というモチーフは、古来より神話や民話によく表れます。
またSFもそうですね。
エイリアンは黒人と白人の戦いの比喩だという研究者もいます。
「双星譚」においても二者の出会いは必ずしも幸せな結果にはなりませんでした。
非常に切ない。
言語と非言語というのは哲学でも非常に重要なテーマです。
ヴィトゲンシュタインは「語りえぬものについては、沈黙しなければならない」 という有名な一文を残しています。
あまりに全てを言葉によって扱おうとすると失われてしまうものがあります。
失われたものは二度と戻ってきません。
この物語でも失ってしまう人がいます。
しかし、このお話は「なんでも言語化したらいけないよ」なんていう陳腐な教訓を示すためにあるのではありません。
よくできた神話がそうであるように、現代人からみると非合理とも思われる筋運びとなり、そしてその非合理性故に、むしろ真実を示しているように思われます。
神話では、死は死として、生は生として、争いは争いとして、自然は自然として描かれます。
そこには意味や解釈を挟む余地はなく、あるがままカオス状態のまま描かれます。
カオスといいましたが、世界はもともとそうあるのだと思います。
それを人間が整理してしまうだけです。
カオスが普通なんです。
「双星譚」には神話がもつ力強さのようなものがあります。
特にラストの壮大な展開は美しい。
気になるでしょう。
欲しいでしょう。
カオスブックスさんはこちらです。http://chaoschaosbooks.tumblr.com/
しかし「双星譚」は完売のようです。
最後の一冊を私が買ったからです。
しかし、増印するようですよ。
しばしお待ちを。